レポート

顧問向け/提案

軽音楽部の大会における審査基準(審査員の評価視点)統一に関する提案

現在、各都道府県の高等学校軽音楽連盟や高等学校文化連盟軽音楽専門部によって行われている各大会をはじめ、民間による軽音楽部対象のコンテストなどにおいて、大会(審査)の根幹となる「審査基準の統一」がなされておりません。それは審査方法や審査項目の差異ではなく、審査を行う審査員の「評価の視点」が統一されていないことに早急な改善の必要があると考えております。

音楽に順位をつけるのは難しいことです。しかし、部活動の目標の1つとして大会やコンテストがあるのであれば、審査員は、どの大会においても同一の視点で審査し、優劣を判断するべきです。そうすることによって、日々の部活動の目標が明確となり、トーナメント形式の大会で正当な評価がなされるようになるのではないでしょうか。

軽音楽部は「コミュニケーション」「クリエイティビティ」「チームワーク」が学べる素晴らしい部活動です。大会の審査基準は、この3つを軸とするべきだと考えております。いかにメンバー間でコミュニケーションを取りながら、いかに楽曲や演奏を自分たちでクリエイトし、チームワークをもって、ステージを作り上げることができたかが、部活動として審査されるべき対象ではないでしょうか。

以下は当協会の主催大会で審査員が共有している審査基準です。もちろん実施する中でマイナー・チェンジを繰り返している段階であり、日進月歩で進化していくポピュラー・ミュージックを根源とする軽音楽部においては考慮しなければいけないことは、まだたくさんあります。ぜひ大会やコンテスト、クリニックなどが行われる際に、この審査基準を元に評価するように審査員の方々にご提示いただき、その是非や問題点、改善点をご報告いただけると幸いです。

本件に関して、ご質問などがありましたら、当協会までお気軽にご連絡ください。

1.審査の方向と基本的な考え方について

◉軽音楽部の大会は部活動の延長線上にあるため、部活動として「本番までにメンバー全員で何を積み上げてきたか」「全員で良いステージを作れたか」を主な審査の対象とする。
◉全体を重視し、全員で同じ目標に向かっていたかという「チームワーク」や「チームプレー」を審査する。
◉当日のステージの完成度のみで審査する。個人の楽器トラブルなども場合によっては審査の対象とする。
◉軽音楽部はバンド演奏を通じて「コミュニケーション」を学ぶ場でもあるので、バンド形態での出場を原則とする。

2.楽曲のカテゴリーについて

◉コピー
歌詞、メロディ、コード進行、各パートのフレーズなどが原曲に則っているもの。しかし、自分たちに合わせて移調やフレーズの変更など、多少のアレンジを加えることは可。審査員は概知の楽曲であったとしても、楽曲の解釈や音作りなどを含め、原曲との違いを重視して評価しない。

◉カバー
既存の楽曲を自分たちなりにアレンジしたもの。歌詞やメロディなどの楽曲の骨格となる部分ではなく、主に演奏スタイル、ジャンル、使用楽器などの大まかな変更を指す。既存のカバーやバージョンを演奏することは、これに準じない。審査員は原曲が概知の楽曲であったとしても、その変化の大きさやアレンジの独自性を重視して評価しない。

◉オリジナル
歌詞、メロディが自分たちで創作されたもの。メンバー以外の作詞や作曲は、これに準じない。審査員は創作性の好みを重視して評価しない。

3.審査項目について①

合奏力

その楽曲を「演奏」するために必要なことをメンバー全員で、どれだけ突き詰めて練習してきたか。また、披露できていたかを審査する。単純に個々の技術を評価するわけではない。

①テクニック
メンバー全員が、その楽曲を演奏するための技術をどれだけ習得していたか。
◉個人のハイレベルなテクニックは合奏にそぐわなければ評価しない。ただし、何もしないことが良いわけではない。
◉コピー楽曲の場合、原曲に忠実かどうかよりも「良い合奏」を目指せていたかを評価する。
◉オリジナル楽曲の場合、個々のフレーズのアイデアやセンス、オリジナリティなどはここでは評価しない。そのフレーズを表現するための演奏技術のみで評価する。
※部活動は単に技術の向上が目的ではなく、「技術は合奏のため」という意識を育てる。
※選曲やレベルに合ったアレンジなどをメンバーで協力して考える意識を育てる。

②リズム理解
メンバー全員が、その楽曲を演奏するためのリズム(テンポ、グルーヴなどを含む)をどれだけ理解していたか。共有、及び披露できていたか。
◉全員がリズムの共有をしていたかを評価する。
◉楽曲に合ったテンポで演奏し、全員でテンポキープができていたかを評価する。
◉原曲に忠実かどうかよりも「良い合奏」を目指せていたかを評価する。
※各々がテンポキープ、リズムキープをする意識を育てる。
※音楽にはリズムが伴っていなければならないという意識を育てる。
※ポピュラーミュージックにとって大切な「グルーヴ」への意識を育てる。

③セオリー
メンバー全員が、その楽曲を演奏するための音楽的知識をどれだけ習得していたか。共有、及び演奏できていたか。
◉個々のフレージングにおいて、キー、構成、和音、コード進行などが理解できていたか。
◉コピー楽曲の場合、原曲に忠実かどうかよりもハーモニーとして成立していたかどうかを評価する。原曲が音楽理論上、あるいは聴感上、音の重ね方などがおかしい場合であっても考慮しない。
◉オリジナル楽曲の場合、コードアレンジのアイデアやセンス、個々のフレージングなどのオリジナリティはここでは評価しない。メンバー全員の和音への理解を評価する。
※各パートのフレーズが絡み合って音楽ができているという意識を育てる。
※キー、スケール、コード、コード進行などの必要最低限な音楽的知識の必要性を育てる。

3.審査項目について②

表現力

その楽曲を「表現」するために必要なことをメンバー全員で、どれだけ突き詰めて練習してきたか。また、披露できていたかを審査する。

①イメージ共有
メンバー全員が、その楽曲の歌詞や世界観、感情、ダイナミクスをどれだけ理解し、共有して、どれだけ独自性を出しながら演奏できていたか。表情やステージングなどで演出し、表現できていたか。
◉たとえ音楽理論上は奇抜なフレーズであっても、楽曲の表現として成り立っていれば評価する。
◉個性に関するオリジナリティはオリジナル楽曲の場合もコピー楽曲の場合も歌唱や演奏が音楽的かどうかを重視し、評価する。
◉派手に動きまわることや動かないステージングなどは楽曲にそぐわなければ評価しない。楽曲のイメージに合ったステージングやパフォーマンスができていたかを評価する。
◉客席に音楽や楽曲に含まれるメッセージなどを伝えようとしていたかを評価する。
◉きちんと演出されていたかどうかではなく、メンバー全員が1つになってドラマを作ろうとしていたかを評価する。
※自己満足で終わらず、全員で人に何かを伝える演奏を目指す意識を育てる。
※人前で演奏するということは楽曲を聴いてもらうためだけではなく、ステージを見てもらうことでもあるという意識を育てる。

②バランス
ステージ上でメンバー同士が連携を取りながら演奏できていたか。各パートの音量や音色、音の定位、音域などのバランスが取れていたか。
◉演奏中、お互いを意識して「合わせよう」としていたか。アイコンタクト、ミスやトラブルのフォローなども評価の対象とする。
◉テーマとなるメロディやソロなどの音量や音色は適切で、押し引きができていたか。
◉それぞれがその楽曲の合奏に合う音作りができていて、歌を含むすべてのパートがきちんと聴こえていたか。
◉チューニングが合っていたか。
※自分が全体の中の1人であり、アンサンブルの中でどう演奏すれば良いかという意識を育てる。
※音楽は「音」として全員で奏でるものであるという意識を育てる。
※楽器を「楽器」として扱い、本番に向けたメンテナンスや調整の必要性を理解させる。

4.審査方法と賞について(例)

◉審査員3名(1名は審査員長)が上記の考え方に基づき、総合的な審査を点数によって行い、賞を決定する。同点だった場合は審査員によって協議され、最終的に審査員長が判断する。
◉審査員は各バンドの演奏終了後に講評し、アドバイスシートに全体的なアドバイスを記入する。コメンテーターは審査には関わらず、パートごとのアドバイスをシートに記入する。
◉審査の点数は開示し、アドバイスシートは各校へ渡すことによって今後の意欲につなげる。

①各賞の例
グランプリ          1バンド
準グランプリ         1バンド
第3位            1バンド
奨励賞            3バンド
個人賞            各1名
・ボーカル
・ギター
・ベース
・ドラム
・キーボード

②個人賞
個人のテクニックや音楽的センスが優れていた生徒へ贈る賞。
◉アンサンブルを無視した身勝手な演奏などは対象外とする。
◉オリジナル楽曲やカバー楽曲の場合、個性やオリジナリティも評価の対象とする。ただし、音楽的でない場合は評価の対象としない。

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